学校で飼うのは何のため?
●日本の社会と学校飼育動物の現状
最近、若い人が命を軽んじた犯罪を起こすニュースを、よく目にするようになりました。必ずとは言い切れませんが、死を身近に感じることなく育ったことも、原因のひとつにあげられるのではないでしょうか。
子どもたちが死を身近に感じられることとして、「学校飼育動物」の存在があります。現在、日本はペットブームと言われていますが、実際に愛玩用として家で抱ける動物を飼っている人のほとんどは、50代から60代の人たちです。子育て世代は2割も飼っていません。
またライフスタイルを優先させたり、経済的な事情や住宅事情により、飼えない家庭も増えてきています。
そんな現実のなかで学校飼育動物は、子どもたちが活動する命「動物」に触れられる、絶好の機会なのです。動物の世話をすることで、思いやりやいたわりの心が育ち、死を目の前にすることで悲しみを感じる。そういった人格形成教育が、必要とされています。
全国で動物を飼っている学校は、9割に上ります。しかし、実際に動物を教育にいかしている学校の数は、まだまだ少ないというのが現状です。
●学校飼育動物の効果
ある幼稚園では、初めてウサギに触れた子どもが「スイッチはどこ?」ときいて、先生をびっくりさせたと言います。これは特殊な事例ではなく、あちこちで起きていることです。
また「生きものは死んでも生き返ることがある」と答える子どもが15〜20%もいたという調査結果もあります。大人たちは子どもに命の大切さを教えようと必死ですが、特定の動物をかわいがり世話をすることが、その近道になるのではないでしょうか。
学校飼育動物は、特定の動物をかわいがることにより、将来、親になるためのケアトレーニングとして、生物教育の基礎となる効果も期待されます。生きものに対する実感や、死んだものは二度と生き返らないという事実、こういったことは言葉では教えられないし、数値で測ることはできません。
「かわいいものはかわいい、かわいそうなものはかわいそう」との人としての普通の感性を、感情を動かす動物飼育体験で、無垢の子どもたちに培うことがでるのではないでしょうか。
●保護者と獣医師の支援
動物の命には休みがありません。土日等、学校が休みの日にも世話は必要です。この間の世話に関しては、保護者が当番制などにして支援をしている地域もあります。子どもたちの大切な飼育動物を守るためには、保護者の方々の理解と協力が必要とされているのです。
また、飼育環境の改善や、動物が病気になった時、死んだ場合の子どもたちへの死因の説明には、学校が気軽に相談できる獣医師の協力が必要です。
現在、全国の6割の市区町村で、学校飼育動物に対して獣医師からの支援を受けることができます(2006年5月の日本獣医師会の調査)。地域の動物病院と連携を結べば、飼育体験はよりいっそう内容の深いものになることが期待できます。